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大友青のブログ

大友青が創作活動においてなんやら書くようです

掌編:六月の雨

六月の雨

 今日も風が揺らめいて、木々が泣き叫んでいた。
 六月の雨など特別珍しくもないのだけれど……
「だからってこんな日にまで降ることないじゃない……」
 私は雨女だった。
 そう打ち明けたとき、たいていの人は「そういう奴いるよねー迷信だよ」なんて反応をするけれど、小・中・高の遠足と修学旅行、初めてのデート、エトセトラ。すべて雨だったというエピソードを話すとドン引きされてしまう。

 そんな私のあだ名は一貫して『カエル』だった。
「カエルちゃん、そんなに泣いても仕方ないじゃん」
 今、わんわん大声で泣いている私の隣には、黒いタキシードに身を包んだ婚約者が笑顔で背中を擦ってくれている。ヘアメイクもされた彼はいつもより少しだけイケメンに見えるから思わず「どちらさま?」なんてとぼけてみたり。
 今日は私と彼の結婚式だった。
 それなのに雨が降るなんて……今までたくさん呪ってきたけれど、この日ほど雨女であることを呪った日はなかった。

 彼とのデートはいつも雨、前撮りの日もお互いの両親に挨拶に行った時も、親族同士の懇親会の時もずっと、ずーっと雨だった。それなのに何の予定もない日ほど晴れやがる。狐さんちょっと嫁入りしすぎじゃない? と自棄酒した日も何度もあった。これだけ続くとこの世の『雨』の天気は私がコントロールしているのではないかと錯覚してくる。
 いや、『自覚』――というべきか。そんなだから、いまだに彼にも『カエルちゃん』なんて呼ばれる始末だ。

 ようやく泣くことをやめた私は、メイクを手直ししてもらっている。放心状態で一点だけを見つめる私にメイク担当さんが「きっと素敵な一日になりますよ」なんて励ましの言葉をかけてくれた。
 雨が降ることを危惧していた私たちは、本当はオープンテラスの会場が良かったのだけれどやむなく室内会場を選択した。
 室内会場に不満があるわけではないが、ガーデンチャペルなんて憧れるではないか。しかし、実際に雨が降ると室内会場で良かった……などと安堵の溜息もでる。

 私の準備も整い、いよいよ式の時間を待つばかりとなった。控え室で彼と二人でいるが緊張のためか沈黙。私は緊張だけではなくて、『雨』であることも気分が晴れない理由ではある。彼も同じ気持ちなのかと考えていたが、どうやらそうではなかったようだ。
 彼は少しずつ、心のうちを教えてくれた。
「俺、今日が雨で本当によかった」
「どういうこと? 私はこんな日くらい晴れてほしかったっていうのに」
 彼の無神経な言葉に私の機嫌は悪くなる。雨でよかったなど、どの口が言っているのだろうか。
「だってさ、『雨』ってカエルちゃんにとって『特別な日』って意味だろ? 俺は結婚式、正直不安だったんだ。マリッジブルーっていうの? 男の俺がそれに浸るのもおかしな話なんだけどさ」
 特別な……日?
「だけど、今日は雨が降った。それは君にとっても特別だと感じてくれている証拠だと思って」
 照れくさそうに言う彼の仕草がたまらなく可愛く映る。まさか彼がマリッジブルーなんて感じていたことに驚いた。鈍感な私はそんなものを感じる暇もなく幸せに包まれていたから、彼のほうがよっぽど乙女なのだなと思う。
「特別だよ……特別に決まってるじゃん」
 式が始まる前に彼の想いを聞けてよかった。だって、彼の言葉で私の霧かかった靄は晴れてしまったから。

 天気は雨だけど、心は晴れていて。この日から私の『雨』に対する考え方が180度変わってしまった。私という女は単純な女だ。
 でも、こんな彼だから、ずっと傍で笑えることを神様が認めてくれたのかもしれない。
「ほら、時間だ。置いていくよ!」
「いや、ドレスで走るなって……」

 これからもずっとずっと『雨』が続きますように――。